2012年4月29日日曜日

日本製造業の復活に関するFAQ


昨晩のNHK BS1の番組で問いかけられた質問は、よく繰り返されるFAQでもありましたので、私見を以下にまとめて掲載させていただきます。

Q1:日本の製造業は何故現在のような苦境に追い込まれたのでしょうか?

まずは外的な要因が大きく、それを整理すると、大きく3つあるのではないかと思います。一つ目は、インターネットやクラウドコンピューティングの発達によって、あらゆる製造業にとって、製造する対象となるもの、たとえば家電産業であれば、テレビだとか、パソコンだとか、携帯電話などの定義が変わってしまったということ。作る対象が数年前までのものとはまるで別の物に変ってしまったのです。そして二つ目は、やはりインターネットやクラウドの発達によって、如何に製造プロセスや生産管理プロセスにそれら最新のIT技術やコンピュータの力を上手く活用するかが勝負を決めるようになった、ということ、もはやトヨタの「カンバン方式」などで差別化できる時代ではなくなりました。そして三つ目が、デジタル化による過当競争やいわゆる「ムーアの法則」によって商品のライフサイクルが極端に短くなった、ということです。これらのメガトレンドの激変によって、それまでの日本のメーカーの勝ちパターンが通用しなくなってしまったのだと思います。また、一方で、これらの変化に素早く追随して新しい勝ちパターンを生み出すことも未だ出来ていない、ということだと思います。

Q2:大幅赤字を発表した現在の日本家電産業の苦境は予測できたことなのでしょうか?

はい。昨年は、日本では大きな震災があり、またタイの洪水やヨーロッパの信用不安や急激な円高など、業績を悪化させる特殊な要因や一時的な原因が多く発生しましたが、そもそも、上記の通り、インターネットなどの発達によって家電産業が大きく変遷しつつあるという構造的な背景があり、その中で存在感を圧倒的に強めたのは、もともとパソコンメーカーだったアップルや、インターネットの世界を制したグーグル、グローバルなSNSを創り上げたフェイスブックなどです。こういう人たちが家電産業を大きく変遷させるキープレーヤーとしても大きな影響力を持つに至っていて、彼らは日本の家電メーカーとは仕事のスタイルやスピード、モノ造りに対する考え方やアプローチなどが本質的に違います。これらシリコンバレーの人達が次々に生み出す新しい流れに素早くかつ貪欲に追随して行ったのが、現在、経済成長のキャッチアップフェーズにいる台湾や韓国や中国のメーカーだったと思いますが、日本はなかなか過去の勝ちパターンを清算して新しい勝ちパターンを創ることが出来ずにいましたから、現在の状況は以前から懸念されてきたことが一気に表面化した事態とも言えます。

Q3:韓国企業がグローバル化で成功し、日本がうまくいってないのは何故でしょうか?

間違ってはいけないことは、日本は一度大成功した、ということです。日本は世界一高品質な工業製品をたくさん作って、made in Japanを世界ブランドに育て上げた輝かしい過去をもっていますし、made in Japanブランドは今でも十分に通用すると思います。問題は、高度成長期を謳歌した後、インターネットやクラウドコンピューティングの発達によって世の中が様変わりしてしまったことに対して、本来の持ち味であった、成長へのハングリーさや、変化へのスピードを失ってしまった、というところにあると思います。韓国に比べると国内市場が十分に大きくて内需中心でやれた時代が長く続いたのも急速なグローバル化が進む中で出遅れた要因の一つでしょう。また、韓国の場合は1997年のアジア金融危機で一度国が破綻仕掛け、そこから、国が強いリーダーシップを発揮して、国内メーカーの統廃合を進め、家電や自動車やエネルギーなどの重点産業領域での国際競争力を国策として育成した、ということもあったと思います。日本の場合は決定的な危機に直面しないまま、じわじわと競争力を失って行った、という構図もあったので、まさに昨年の震災によってどこまで本気で危機意識を持つに至ったか、ということが今後を決めて行くことになるでしょうね。

Q4:日本メーカーの巻き返しというのは可能なのでしょうか?

既に抜かれてしまったような分野で巻き返すことは簡単ではないと思います。中途半端なやり方で巻き返すことはできませんので、投資の規模とかスピードで圧倒的に上回るやり方をとらないと当然無理だと思います。一方で、日本は今後、自分達の強みをどこに求めて行くのか?という根源的な問いに対する答えを早く作らねばならないと思います。単に今までの延長線上で家電産業や自動車産業を続けていくのではなくて、5年後、10年後、20年後の世の中にどのような新しい価値を生み出していくのか、ということをまずビジョンとして創り上げる必要があると思います。明確なビジョンがなければ成長戦略も作れず、思い切った投資も出来ないし、スピードも上がらないと思います。

Q5:日本からは何故アップルやグーグルのような会社が生まれてこないのでしょうか?

私はその質問を受けるといつも困惑します。それは、私自身が学校出てから長くソニーという会社で働いていたためだと思います。昔のソニーという会社は「人がやらないことをやる」「世界で最初のことをやる」という気質の強い会社で、結果的にはトランジスターラジオとか、トリニトロンテレビとか、ホームビデオとかウォークマンとかプレーステーションとか、まったく新しい家電商品を生み出してそれら画期的な商品を次々と成功させて世界のソニーと言われるようになった会社なんですね。良く言われることですが、実際にアップルを作ったスティーブ・ジョブズはいつかアップルをソニーのような会社にしたいと本気で思っていた時期もあったようですし、ソニーの創業者の一人である盛田昭夫さんとは個人的に親交も深くてとても尊敬もしていたようです。ですから、日本から、アップルやグーグルのような企業が生まれない、という見解は間違っていて、そういう会社が生まれる素地はちゃんとある、と思った方がいいと思います。ただ、問題は、ソニーの後に続く会社がなかなか出てこない、いつまでも20世紀に誕生した大企業頼りの産業構造がなかなか変化しなくて、産業の新陳代謝が遅い、ということだと思います。特にインターネットの世の中になってからはそれが顕著だということだと思います。

Q6:音楽配信でソニーは何故アップルのリードを許してしまったのでしょうか?

アップルがやったことは、音楽を聴くためのまったく新しい生態系を創り上げた、ということです。確かにソニーも音楽をネットワークで配信する時代が来ることを早くから予測してその為のデバイスを創るところまでは先行していたと思います。しかしながら、生態系を作り直して、音楽を聴く環境そのものを一変させるためには、単にデバイスを開発するだけでは無理で、多くの音楽レーベルなども巻き込んで音楽配信の仕組みそのものを新たに構築しなければなりません。そういう総合的な取り組みにおいては、デバイス側やレーベル側の様々なプレーヤーの思惑やエゴを超越したリーダーシップや調整力が求められますが、ソニーの場合は、自分の内側にエレキも音楽コンテンツも両方持っていたことが逆に災いして、両者の利害調整がうまくできなかった、ということが一つの要因としてあると思います。それ以外には、当時ソニーはミニディスクという新しいメディアに移行させようとして長年投資を続けていたとか、自分達独自のオーディオ圧縮技術やコンテンツ保護技術にこだわり過ぎた、という他の要因もいろいろとあったと思います。

Q7:メイド・イン・ジャパン復活のカギは何でしょうか?

まず、内需先行の発想を止める、ということだと思います。従来の日本企業の典型的なパターンは、まず国内マーケットで成功させて、その後、海外進出する、というものでした。しかしながら、それは言ってみれば20世紀型の古いスタイルです。今はインターネットで世界中の20億人以上の人達が繋がっている時代ですし、フェイスブックだけでも9億人のユーザが世界中にいて、日々これらの数は増え続けています。ですから、極端に言えば、国内を単位として発想したりアプローチすることを止めて、最初から地球単位で発想したり行動したりすることがまずは何よりも大切なのだと思います。すなわち内需と言っても、日本の内需ではなくてフェイスブックコミュニティの内需を最初から狙う、というような発想が大事だと思います。

4 件のコメント:

  1. 分りやすいFAQ有難うございます。辻野さんならではの説得力のあるFAQと感じます。
    FAQ6でSONYの技術力をもってすれば、ユーザーニーズをとらえコンテンツの提供を変革すればやれてたんではという側面でとらえていましたが、ミニディスクでの執着、こだわりもあったんですね!私も一時持ちましたがWalkmanはともかく買ったO社のコンポのMDメカ部がすぐ故障し、浮気してipodに乗り換えましたが、音質面で満足いかずSONYのHDDコンポとDigitalWalkmanに変えました。たまたまTSUTAYAが近いので携帯音楽プレーやとしては満足していて、大賀さんの音質に対するこだわりのたまものなんだなと思っています。
    でも、やかり映像の有り無しの違いは感じYouTube系への魅力には圧倒されるものがあります。SONYがやってくれるならSONY、また日本のSONYな会社に頑張ってほしいですね(^'^)

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  2. yukky_hikkyさま、コメントどうもありがとうございます。先日は大賀さんの一周忌でした。早いものです。昨年のお別れの会で、大賀さんへのお別れと同時に、ソニーの時代もこれで完全に終わったのだと感じました。

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  3. Hisashi Nakajima2012年11月6日 14:15

    CD-Rの市場導入を終えてソニーを定年退社した中島尚と申すものです。御著「グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた」を興味深く、同感の意を強くして読み終えたところです。 テープレコーダー、ラジオ、テレビ、ハイファイ、ウオークマン、VAIO、CD...ソニーはコンテンツと聴視者の間を結ぶメディアの技術的、商品形態的革新と利便性の向上で世界をリードした会社でした。しかし、現在の最強のメディアであるインターネットの対処を誤り、DRMなどに現を抜かし実際にユーチューブなどで起こっている現象を敵視さえしています。世界にはタダでも自分の演奏を聴視してもらいたいと高品位のビデオをアップロードしているアーティストは数多くいます。これまで数年に亘り自身の演奏のHDビデオを数多く上げ、ファンを増やしついに今年の6月にロンドンのロイヤル アルバート・ホールに満員の聴衆を集めたバレンティーナ・リシッツァさんが良い例です。他にもユーチューブで楽しめるHD音楽ファイルは探し始めたらきりがないほどで、またフランスのArte Live Web のようなストリームテレビ局も一流音楽家の優れた演奏を高画質で配信しています。さらにベルリンフィルのように会費を取ってその演奏を配信している楽団もあります。このような現状の下で日本のハード屋もコンテンツ屋もCDやDVDの延命策に政治家まで使いエネルギーを浪費し、ブルーレイなどという円盤メディアを今更プロモートしています。インターネット上で好みのビデオファイルをオンデマンドで聴視しさらに必要なら自分のライブラリーをクラウドに保存しておくことができる今、日本の音楽業界の現状をどう見ておられますか?

    以前大きなスピーカーの前で目を瞑り、腕組みして聞いていた音楽も高画質映像が伴うとさらに聴く楽しみが増えるので地デジのために購入した大型画面のテレビをインターネットのモニターとして使うことを大いにプロモートすべきと思うのですが...

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  4. 中島様、素晴らしいコメントを頂戴しておりましたのに、気が付くのが遅れて失礼しました。ご意見、ご指摘に全く賛同です。ソニーに限らず、日本のかつてのスタープレーヤー達の多くが、過去の輝かしい成功体験やそれまでの蓄積が大きな足枷になって、軒並み時代の流れに取り残されてしまいましたね。東京スカイツリーが今の日本の現状を象徴的に物語っているように思います。放送波を飛ばす電波塔は20世紀の発想ですね。政権も変わったことですし、この国を変えていかねばならないと思います。

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