2018年7月10日火曜日

サッカー夢のあと

サッカーのワールドカップで、日本チームが予選リーグを突破して決勝トーナメントには進んだものの、初戦でベルギーに逆転負けで敗れ、今回もベスト8進出への夢は叶いませんでした。 もちろん、西野監督も選手達も持てる力のすべてを出し切って戦った姿は感動的で我々を大いに楽しませてくれたと共に勇気づけてもくれました。西野監督と選手の皆さんには心からお疲れ様でしたと申し上げたいと思います。

一方で、今回の軌跡を振り返って、次回以降のベスト8以上進出を目指すことを考えた時に、日本チームに何が足りなかったのか、ということを冷静に分析してみたいと思います。もちろん、すでに多くの専門家がさまざまな分析をしていますので、体力面や戦術面での分析はそれらにお任せして、ここでは「目標設定」という切り口から考えてみます。

予選リーグでのセネガル戦も、決勝トーナメントでのベルギー戦も、十分に勝てた試合だっただけに、本当に残念で悔しい結果でした。特にベルギー戦では、後半開始早々に原口選手と乾選手の鮮やかなゴールで2対0と2点を先制する願ってもない状況を作り出しました。にもかかわらず、その2点を守り切れなかったのはどうしてでしょうか?

西野監督は試合直後のインタビューで「何が足りないんでしょう?」と述べていましたが、私は「目標設定」の問題なのではないかと思います。直前に監督が急遽交代するなどのドタバタの中でベスト16に入ったのはまさに快挙ですが、日本チームのもともとの目標設定は、「予選リーグを突破してベスト16に入ること」だったと思います。その上で、「あわよくばベスト8へ」というのが日本チームの「悲願」だったということです。それに対して、FIFAランキング3位のベルギーチームの目標設定はあたりまえのように「優勝」でしょう。

ですから、日本チームはベルギー戦で自分たちが2点を先行することはまったく想定していなかったと思います。想定していなかった状況を自ら作り出し、ベスト8が見えた瞬間に、自分たちのいわゆる「コンフォートゾーン」から外れてしまったのです。何故ならベスト16に残ることがもともとの目標だったからです。

一方、ベルギーにとっても、日本に2点も先行されることは想定外だったでしょう。この瞬間にベルギーも自分たちのコンフォートゾーンを外れてしまいました。何故なら、決勝トーナメントを最後まで勝ち抜いて優勝することに目標設定しているからです。

心理学的に、人間はコンフォートゾーンを外れてしまうと、「こんなはずではない」とか「これはできすぎだ」となって不安定になり、無意識のうちに自分の設定したコンフォートゾーンに戻ろうとするエネルギーが働くそうです。それが、日本が2点を先行した直後から調子を崩してしまったのに対して、ベルギーが我に返ったかのごとく底力を発揮して立て続けに3点を奪った一番の理由だと思います。その後、ベルギーはブラジルも撃破してベスト4に進んでいます(7月7日現在)。

ちなみに、日本チームで「優勝」と言っていたのは本田選手だけです。皮肉にもその本田選手は、アディショナルタイム終了ぎりぎりの段階での不用意なコーナーキックによって、絵に描いたような瞬殺のカウンター攻撃のきっかけを相手に与えてしまいました。終了間際のわずか10秒弱のシーンは、両チームの差を示す象徴的なシーンでした。監督も選手もまた国民も、本気で「優勝」に目標設定をしているベルギーに対して、日本は、監督も選手もサッカー協会も国民も、本気で優勝を心から信じていた人など誰もいなかったと思います。夢が潰えた瞬間でした。

日本が次回以降でベスト8以上に進むためには、監督や選手は当然として、サポーター全員が本気で優勝を信じるレベルになることが第一歩だと思います。サッカーのように肉食的な闘争本能を剥き出しにして闘うスポーツに、「控え目」「遠慮」「謙虚」を美徳とする日本人は本来向いていないのかもしれませんが、Jリーグを創設するなどで30年近く掛けてよくここまで強くなったものです。

しかし、現在の壁を突破して本当のサッカー強豪国になるには、やはり「ワールドカップ優勝」に本気で目標を定めない限りは無理です。高いところに目標を設定し、そこに到達するまでは「負け」を許さず一切甘い顔はしない、というくらいにならないと、これ以上上位に進むことは厳しいのではないでしょうか。

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「W杯ロシア大会で台頭したスター5選手」に選出された乾選手【Getty Images】

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