2012年2月6日月曜日

日本家電産業の壊滅

日本の家電産業が業績悪化に苦しんでいる。2012年3月期最終見通しとして、パナソニックが7800億円の赤字、ソニーが2200億円の赤字、シャープが2900億円の赤字を発表した。三社合わせて1兆3000億円程の途方もない損失という衝撃的な数字だ。また、やはり長く優良企業の代名詞でもあった任天堂も今期450億円の赤字見通しを発表している。株価も低迷が続いている。ソニー株は2003年のソニーショック時の半値以下という惨憺たる状況でもはやハイテク株の名残はどこにもなく、2007年には7万円を超えた任天堂の株価もついに1万円を割った。

いったい何が起きているのか?

言うまでもなく、昨年は震災、タイの洪水、ヨーロッパの信用不安等が重なり、今回の数字にはそのようなことを理由とする一時的な要因も含まれてはいるが、 これらの業績不振が物語る本質は、決して一過性の問題ではなく、日本経済の構造的な問題と関連しているという点に注意しなければならない。

簡単に言うと、インターネットやクラウドが我々のインフラとして登場してから、20世紀までの家電やゲームの世界が完全に再定義されて様変わりし、まるで別の土俵に変わってしまった、ということに起因している。もはや従来のテレビやパソコンやモバイルやゲーム機といった垣根は無くなり、商品の定義もすっかり変わって、すべてがクラウドを前提とした別の生態系の上にシフトしてしまった。そしてデバイスそのものは、デジタライゼーションや「ムーアの法則」を背景にコモディティ化が進み、使い捨てを前提とした消耗品という位置付けに変わった。Before Internetの時代に日本勢が強味を発揮した高品質の耐久財を生み出すスタイルや、デバイスの特徴で差別化するスタイルはもはや通用しなくなったのだ。

結果として、20世紀の市場の覇者であった日本勢はその変化に追随できずに追いやられ、新たな生態系の構築に成功したアップルやグーグル、日本からの学びを活かして変化に素早くかつ貪欲に追随したサムソンなどに主役の座を完全に奪われてしまった、という構図である。上記の、日本を代表する優良企業の軒並みの巨額赤字決算は、その構図が、昨年の苦境をきっかけに一気に顕在化した、と捉えるべきであろう。今更ながらの話ではある。

今後、この変化は家電業界に留まらない。自動車業界も、テスラモーターズなど、クルマの会社というよりも、シリコンバレー発のIT企業と見做した方がいい新興勢力が生まれている。彼等は、モノ造りのスタイルも、スピードも、ビジネスのやり方も、従来のクルマの会社とはまったく違う。

家電業界で起きてしまったことを他業界は教訓として活かして欲しい。

週刊東洋経済2012/1/28号 表紙

4 件のコメント:

  1. 日本の企業自身の問題です、海外の文化について。海外の宣伝戦略、一番問題は 日本の会社組織式だ!!

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  2. 今日はアメリカの国民的スポーツイベントスーパーボウルが開催され、ハーフタイム中に流れたクライスラーのTVCMでクリントイーストウッドが語った「アメリカは今ハーフタイムだ、後半戦はこれからだ」という言葉が話題をよんでいます。こういった効果的な宣伝で国民全体を盛り上げてしまう、そして盛り上がってしまうのもアメリカの原動力だと思います。

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  3. おしゃっることはごもっともです。一歩いやそれ以上先を見据えておられる辻野さんに、これからの日本は、また日本の産業界は具体的にどうして行けばよいのか、指針を出していただけないでしょうか。一日本国民としてお願いいたします。

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  4. ありがとうございます。自分が今取り組んでいる事業そのものが自分なりの指針のつもりです。

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