2012年7月1日日曜日

シンプル

少し前に、最近出版されたKen Segall著「Think Simple」(NHK出版)を読みました。アップルやスティーブ・ジョブズと長年一緒に仕事をした外部のクリエイティブ・ディレクターがジョブズのスタイルの特徴を10のキーワードでまとめたものですが、これを読んでいると、あまたの日本の大企業が駄目になっていく理由がクリアに説明されているようで非常に面白かったです。日本の大企業だけでなく、マイクロソフト、インテル、デルなどが最近精彩を欠くようになってきている理由も同じです。

その理由を一言で言うと、我々は何事も、物事を複雑にしていく傾向があり、企業も大きくなるにしたがって、シンプルさをどんどん失っていってしまうということです。一方で、ジョブズのスタイルはあくまでもシンプルさを追求することに一切妥協しなかった、ということをさまざまな具体事例を盛り込んで余すことなく説明しています。私もソニー時代、グーグル時代の経験に照らし合わせてまさにその通りと感じました。たとえば、家電量販店に行って、PC売り場にでもTV売り場にでも行くと、各社のあまりにも多くのモデルが並んでいて一体どれを買っていいか迷った経験は誰にでもあるでしょう。オンラインショッピングの場合も同じです。それに対して、アップルのノートPCはMacBook ProとMacBook Airしかなく、それぞれに画面サイズ等のスペックの違うモデルが2モデルずつあるだけという実にシンプルなラインナップを堅持しています。誰もがアップルの成功をうらやみ、このようなモデル数の絞り込みを正しいラインナップ戦略と理解しながらも、どこも決して同じようには出来ないのです。あるいは、大企業の戦略会議などでは、各部署から代表者を出したり、さまざまな人達への配慮から、あっという間に大人数の大会議になってしまいますが、そうなると議論に時間ばかりかかって一向にデシジョンやアクションに繋がらない、といった経験も誰にもあるでしょう。まるで今の民主党のようですが(笑)。。。ジョブズのスタイルは、会議のメンバーはその会議にとって決定的に重要な少人数しか招かない、観客のような人が混ざっていたら退席させる、という点でも徹底していたようですが、これもわかっていても普通の組織ではなかなかできないことだと思います。

勝つためのセオリーなど、本来は実にシンプルなものだと思います。そのシンプルなセオリーを厳格に徹底して実行できるかどうか、ということにすべてがかかっているのです。今決めねばならないことを明日に伸ばす、すぐに返事をしなければならない案件を放置する、会議に余計な人を混ぜる、はっきり言えばいいことを婉曲的に言う、最初から一つだけ作ればいいものをバックアップも含めて複数作る、などなど、こういう行為が物事をどんどん複雑にしていってしまって、気が付いたら時間やお金や大事な経営資源をどんどん無駄にしていってしまうのです。シンプルさの追求とは当たり前のセオリーでありながら決して皆が出来ることではないのです。

1 件のコメント:

  1. お邪魔します。今年に入って、スマホ全般に注目しているものですが、今年の夏から秋、さらに冬にかけてのdocomoの戦略は、まさに超・逆シンプルですね。通信環境は簡単には改善しない……。MNP流失防ぎたい。だったら今のところは資本も潤沢だし、Androidだけでなく、WindowsPhoneだろうが、中華フォンだろうが、さらにはXi対応の新型ガラスマまで全部怒涛に並べてやろう……みたいな。ただし、夏モデルも地雷スマホばかりだったし、これからは遅れてきたスマホ初心者を相手にしなくてはならない。そんなユーザーにとって、こんな怒涛に商品ラインナップあっても迷うだけだろ……と思ったばかりでした。巨大寡占企業の宿痾というか……。外部がいくら言っても(内部が言っても……)、自然崩壊する運命にあるのだろうな、と思っていたところで、辻野さんのコラムを拝読したという次第です。

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